Far Away について

先日、DMOARTSのスタッフの高山さんから、ある試みで通常とは異なるフライヤーを作成したいとのご提案をいただき、今回の個展についてインタビューをお受けしました。

お話ししたことによって自分でも今回の個展について色々と整理ができ、改めて気づいたことも多かったので、読んで頂くとこれから展示を観てくださる方にとってよりコンセプトなどが伝わりやすいのではないかと思い、こちらのブログにも掲載させて頂くことになりました。

そのまま掲載しておりますので、いつものブログとは比べ物にならないくらいボリュームがございます。
どうぞご一読頂けましたら幸いです。


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「双眼鏡を覗けば見える場所と私が今いる場所には同じ時間が流れている。でも、まるで別世界のような風景がそこにはあるんです。」


9月20日から開催される中比良真子個展 〝Far Away〟に先駆けて作家の中比良真子さんに話を伺った。8月某日、京都市内の古い建物をリノベーションしたコワーキングスペースで行われたインタビューは、幼少期の思い出話から始まった。


―今回の個展について教えて下さい。


子供の頃住んでいた古い日本家屋に、山水画の衝立があったんです。じっと眺めていると自分がその絵の中にいる気分になるんですよ。
この山はこの道をこう登って、あの川はこんな風に飛び超えて、という風に想像して遊ぶ事がすごく好きでした。
 
以前から風景画をいろんなアプローチで描いているんですけど、今回の個展は私自身が「風景画」として捉えているものの原点に近いというか、長い間、自分が本当に惹かれるもの、描きたいものは何なのか考えを巡らせたら、色々思い出したんですよ。
最初にお話した山水画の衝立とか、展望台に置かれている遠くまで見渡せる双眼鏡とか。
もともと双眼鏡がすごく好きで、覗くと現実には立体的に見えるはずの景色がすごく平面的に見えて。
嘘っぽくて、静止画のように見えるのに、そこにたまに人が歩いてきたりすると、現実に引き戻されたような感じがしてびっくりすることがあります。
あとはスノードームも好きです。球体の中に風景が閉じ込められている様子は、まるで箱庭のような感じがして。

今いる場所から遠い向こう、ただ見つめるだけで手が届かない風景を、覗きこんでいるような感じで表現したいと思い、今回使用している丸いフレームにたどり着きました。
最初は手探りでしたが、たくさん描いているうちに少しずつ感覚が掴めてきて、絵の中に風景の層や見ている場所からの距離を表現できるようになってきて、今回の「Far Away」という作品が生まれました。

日常で目にするものというのは限られているじゃないですか。例えば、家の中だと部屋の壁の先は見ることは出来ないし、外に出ても建物があったり、その奥に山が連なっている、というように限界があるんですけど、実際には景色はその奥にもいくつもいくつも連なっていて 、どこから風景を 覗くかが違うだけで同時に いろんな風景が存在している。
今回、それらを絵にすることで壁の向こうにある無数の風景や、うつろう景色の瞬間を表現できればと思っています。


―個展を楽しみにしておられる方にメッセージをお願いします。


今回、個展としては初めて発表するシリーズの作品なので、まだどんな反応をいただけるのか想像がつかないのですが、これまでのシリーズを見て興味を持ってくださった方にもまた違う面を楽しんでもらいたいなと思っています。
「作家が見た景色」という第三者の視点から見るのではなくて、見に来ていただいた方自身が今まで見てきた思い出の景色と絵が重なり合うというように、絵と一対一で静かに向き合ってもらえたら一番嬉しいです。



真剣な眼差しで思いを語ってくれた作家の風景画に対する愛は、絵と向き合えば伝わるはず。DMOARTSに登場する様々な双眼鏡を覗いて見えるたくさんの風景。絵の中に描かれる風景は決して作家だけの風景ではないはず。時空と距離を超えた風景旅行に出かけましょう。